犬と暮らしていると、多くの飼い主さんが一度は直面するのが「噛みつき」の問題です。
「甘噛みだから大丈夫」と放っておいてよい場合もあれば、早急にしつけをしないと本気噛みに発展してしまうケースもあります。
- 子犬と成犬で噛み方や理由がどう違うのか
- なぜ犬は甘噛みをするのか
- 噛みつきをやめさせる具体的なしつけ方法
- 本気で噛むようになったときの対処と予防
といったポイントを、できるだけわかりやすく整理して解説します。
単に叱るだけでなく、「犬の気持ちを理解しながら、人と安全に暮らせるルールを教える」という視点で考えていきましょう。
犬の「噛む」という行動を理解する


まず押さえておきたいのは、「噛むこと」自体は犬にとってごく自然な行動だという点です。犬は、噛むことでさまざまなことをしています。
- 物の硬さやにおいを確かめる
- 退屈やストレスを発散する
- 歯や歯茎の違和感を和らげる
- 遊びやコミュニケーションの一部としてじゃれる
- 自分の身を守る、防衛する
この中には、人と暮らすうえで問題にならない噛み方(おもちゃを噛む、ガムを噛む など)もあれば、絶対にやめさせるべき噛みつき(人や他の犬に向けた本気噛み)もあります。
甘噛みと本気噛みの違い
一般的に、犬の噛みつきは次のように分けられます。
1.甘噛み(じゃれて噛む)
- 子犬に特に多い
- 歯が当たると少し痛いが、血が出るほどではないことが多い
- 遊びの延長や、注目を引きたいときに行われる
2.本気噛み(怒り・恐怖による攻撃的な噛みつき)
- 目や顔つき、体の硬さからも「怒り」「怯え」がはっきりわかる
- 深く噛み込み、出血やけがにつながる危険な噛みつき
- 触られたくない部分を触られた、物を取られそうになった、不安でパニックになった…などがきっかけ
「甘噛みだからいい」と軽く考えていると、犬にとっては「手を噛んでも問題ない」と学習してしまい、成犬になっても噛みつきが続きやすくなります。
逆に、本気噛みが見られる場合は、安全面の問題も大きいため、家庭でのしつけにくわえて、しつけ教室やドッグトレーナー、獣医師への相談も視野に入れましょう。
子犬が甘噛みする主な理由
子犬の場合の甘噛みには、ほとんどの場合「生理的な理由」と「学習途中」という2つの背景があります。
歯の生え変わりによる違和感
最も代表的なのは、歯の生え変わりのタイミングです。
- 子犬の乳歯は、生後数ヶ月から順に抜け、永久歯へと生え変わります
- この時期、歯茎がむずむず痒かったり、違和感を覚えたりします
- その不快感を紛らわせるために、身の回りのものを片っ端から噛みたがるようになります
ボールやロープ、布製のおもちゃ、タオルを渡すと、長時間夢中になって噛んでいることがありますが、これは自然な行動です。噛むことで、
- 歯の抜け替わりを促す
- 歯茎の痒さ・ムズムズを和らげる
- 噛む力や顎の使い方を学ぶ
という役割を果たしています。
世界を「口」で確かめている
人間の赤ちゃんが何でも口に入れて確かめるように、子犬も世界を「口」で学びます。
- これは何のにおいがするか
- 噛むとどんな感触か
- どれくらいの力で噛んだら相手が反応するか
こうした経験を通して、「どの程度噛むと相手が痛がるか」「噛むと怒られるもの/許されるもの」を学んでいきます。
このプロセスを、しつけによって上手に導いてあげることが大切です。
成犬が甘噛みする理由
成犬になっても甘噛みが続いている場合、単なる歯の問題だけでなく、「人との関わり方」や「日常のストレス」が大きく関係していることが多くなります。
遊び方・コミュニケーションの癖が残っている
子犬のころから、次のような対応を続けていると、成犬になっても甘噛みがやめられないことがあります。
- 手を使った激しいじゃれあい遊びをよくしていた
- 噛まれたときに、きちんと「ダメ」と教えず、笑って許していた
- おもちゃを使わずに、手や服の袖を「おもちゃ代わり」にしていた
犬から見ると、「手を噛む=人と遊べる」「注目してもらえる」という学習ができてしまい、なかなか噛みつきが減りません。
ストレス・欲求不満のサイン
成犬の甘噛みや噛みつきには、「ストレス解消」としての意味が隠れていることもよくあります。
- 散歩や運動量が少ない、十分に遊べていない
- 留守番が長く、寂しさや退屈を感じている
- 暑さ・寒さなど、環境が不快
- 近くに苦手な音や物(掃除機、インターホン、他の犬など)がある
- 家族の大きな声や急な動きが怖い
こうしたストレスや不安が溜まると、
- 吠える
- 物を壊す
- 甘噛みが増える
- ときに本気噛みに近い噛みつきが出る
といった形で現れてきます。
「最近よく噛むようになった」と感じたら、しつけ以前に、生活環境や接し方を見直してみる必要があります。
子犬の甘噛みをやめさせるしつけ
ここからは、具体的なしつけの方法を見ていきます。
子犬の甘噛みは、「完全にゼロにする」よりも「人を傷つけない噛み方と、噛んでよい対象を教える」というスタンスで進めるとスムーズです。
噛んでもいいものをたっぷり用意する
子犬にとって「噛む」こと自体は必要な行動なので、まずは噛んでも問題のないものを十分に用意しましょう。
- 子犬用のやわらかいおもちゃ
- 布製ロープやタオル
- 子犬用ガムやデンタルおもちゃ など
タオルを使った引っ張りっこ遊びは、歯の生え変わりのサポートにもなります。
- タオルを犬の口元の高さで、水平になるように持ちます (犬の頭より高い位置で引っ張ると、首を痛める原因になるため注意)
- 犬がしっかり噛んだら、軽く引っ張り合いをする
- 強く引きすぎず、「遊び」の範囲で行う
- 遊んでいるうちに乳歯がぽろっと落ちることがありますが、大きな出血がなければ通常は問題ありません
「噛んでいいもの」と「噛んではいけないもの」を教える
しつけの基本は、「選択肢をはっきりさせる」ことです。
- 噛んでもよいおもちゃ・タオルなどを与える
-
→ 噛んでいる間は穏やかに見守り、必要なら褒める
- 人の手・服・家具など、噛んではいけないものを噛んだとき
-
→ 「ダメ」など、短くはっきりした言葉で止める
→ すぐにおもちゃへと対象を切り替え、「こっちを噛んでね」と誘導する
この「ダメ」と「こっちならOK」というセットを、根気よく繰り返すことで、犬は少しずつルールを理解していきます。
撫で方・触り方の工夫
子犬の時期に、人に触られることに良い印象を持ってもらうことはとても大切です。
- いきなり頭の上から手を伸ばすと、驚いて甘噛みしたり、怖がったりしがち
- 最初は体の側面や胸、頬のあたりなど、犬から見やすい位置を中心に優しく撫でる
- 落ち着いて受け入れているようであれば、少しずつ触る場所を増やしていく
「触られる=怖くない・気持ちいい」という経験を積ませることで、噛みつきの予防にもつながります。
やってはいけないしつけ(マズルを押さえるなど)
甘噛みを止めようとして、犬の口(マズル)をつかんで押さえ込む方法を耳にすることがありますが、これはおすすめできません。
- 怖い思いをさせるだけで、根本的な理解にはつながりにくい
- 人の手=怖い/痛い存在 と学習し、「人への信頼」が損なわれるおそれ
- 場合によっては、恐怖から逆に本気噛みへ発展する危険もある
しつけは「恐怖で押さえ込む」のではなく、「わかりやすいルールを、何度も繰り返し教える」ことが基本です。
成犬の甘噛み・噛み癖への対処
成犬になってからの甘噛みは、子犬期のしつけ不足や、日々のストレス、人との関係性など、複数の要因が絡んでいることが少なくありません。
まず「原因の仮説」を立てる
しつけを始める前に、次のような点を振り返ってみてください。
- 子犬のころ、「噛んでいいもの/いけないもの」を明確に教えてきたか
- 手を使った激しいじゃれ遊びを続けてこなかったか
- 噛まれたとき、その場で一貫して「ダメ」と伝えてきたか
- 撫で方や触り方が乱暴になっていないか
どれかに心当たりがあれば、まずはその部分を修正していきます。
そのうえで、
- 散歩の頻度や時間は十分か
- 留守番中、退屈しのぎのおもちゃなどがあるか
- 室温や寝床の環境は適切か
- 家族の接し方が急に変わっていないか
といった、ストレス要因もチェックしてみましょう。
ストレスを減らすためにできること
噛み癖の背景にストレスがある場合、叱るだけでは根本的な解決になりません。
- 散歩の時間・コースを見直し、ニオイ嗅ぎなど「探索行動」を十分にさせる
- 引っ張りっこや知育トイなど、脳と体を使う遊びを取り入れる
- 留守番時に、安全なおもちゃや噛めるグッズを置いておく
- 暑さ・寒さ対策をし、落ち着ける寝床を用意する
- 家の中で、犬が安心して隠れられる場所(クレートやベッドの周囲など)を確保する
ストレスが軽くなってくると、甘噛みや噛みつきが自然と減っていく場合も多く見られます。
犬が本気で噛むようになる理由と対処
甘噛みと比べて、最も注意すべきなのが本気噛みです。
本気で噛むようになってしまうのは、「怒り」や「恐怖」「痛み」など、犬にとって切実な感情が背景にあります。
よくある本気噛みのきっかけ
- 体の痛い部分に触られた、無理やり抱き上げられた
- 食べているもの・遊んでいるものを急に取り上げられた
- 怖い物や音から逃げられない状態で追いつめられた
- 過去に叩かれるなど、強い恐怖体験がある
犬から見ると、「身を守るためには噛むしかない」と感じてしまう状況です。
本気噛みをやめさせるための基本方針
本気で噛もうとしているときに、その瞬間だけ止めるのは非常に難しく、危険も伴います。
重要なのは、
- まず犬を落ち着かせ、危険から遠ざける
- 「怒り・恐怖」の原因を取り除く
- 日常的なしつけ・トレーニングを通じて、信頼関係とルールを再構築する
という長期的な視点です。
- すぐにその場から距離を取り、接触を中断する
- 無理に制止しようとしてかえって刺激しないよう注意
- 状況によっては、専門のトレーナーや獣医師に相談し、行動改善プログラムを組むことも検討する
- その物が犬の視界に入らないように移動する
- すでに噛みついている場合、無理に引き剥がさず、犬が一度口から離したタイミングで静かに片づける
- 「獲物を奪われた」と感じさせないよう、取り上げ方には十分注意する
本気噛みが出ている場合は、家庭内だけで対処しようとせず、早めにプロに相談することも大切です。
叱るときに気をつけたいポイント
噛みついたときは、「これはいけない」ということを伝える必要がありますが、
- 感情的に怒鳴る
- 叩く、蹴るなどの体罰を与える
- 長時間くどくど叱り続ける
といった方法は逆効果です。犬は、
- 人が怖くなる
- 予測不能な存在に見え、さらなる不安や攻撃性につながる
といった悪循環に陥ることがあります。
- 「ダメ」「ノー」など、短い言葉を落ち着いた声で
- 噛んだ瞬間にのみ伝え、その後は引きずらない
- そのあと、「こうしてほしい」という行動(おすわり、おもちゃを噛む など)に誘導し、できたら褒める
という流れを意識すると、犬も理解しやすくなります。
まとめ:噛みつき・甘噛みと向き合うために
犬にとって噛むことは、ごく自然で、生活の一部でもある行動です。
一方で、人と安全に暮らしていくためには、
- 人の手や体を噛まない
- 他人や他の犬に危険な噛みつきをしない
- 噛んでいいものとダメなものの区別を学ぶ
といったルールを、しつけを通じてきちんと教える必要があります。
ポイントを整理すると、
- 子犬の甘噛み**は、歯の生え変わりや好奇心によるものが中心
-
→ 噛んでよいおもちゃやタオルを用意し、「ダメ」と「こっちならOK」を根気よく教える
- 成犬の甘噛み・噛み癖**には、子犬期のしつけの影響や、日々のストレスが関わることが多い
-
→ 生活環境・散歩・遊び・接し方を見直しつつ、ルールを再確認させる
- 本気噛み**が見られる場合は、「怒り」「恐怖」「痛み」が背景にある
-
→ まず安全を確保し、原因を取り除き、必要に応じて専門家に相談する
噛みつきのしつけは、一度で劇的に変わるものではありませんが、日々同じルールを繰り返し伝えることで、少しずつ必ず変化が出てきます。
愛犬の気持ちに目を向けながら、「噛まなくても安心して暮らせる環境」と「わかりやすいルールづくり」を両立させていきましょう。